大手町からものづくりでイノベーションを起こす「Inspired.Lab」
2021年02月04日 デジタルプリンティング, 3Dものづくり
東京・大手町の「Inspired.Lab(インスパイアードラボ)」様は、大企業とスタートアップが同居し、企業の枠を越えて新しい製品やサービスを生み出すビジネスイノベーションスペースです。オフィスとアイデア試作のための工房を持ち、工房に当社のUVプリンターや3次元切削加工機を導入しています。
大企業とスタートアップのコラボレーションが生まれる場所
企業向けソフトウェア大手のSAPの日本法人SAPジャパンと三菱地所が共同で運営するInspired.Lab。大小のプライベートオフィス、カフェ・ラウンジや工房などの共有スペースで入居者同士のコラボレーションが生まれます。
製品やサービスのアイデアは工房ですぐに試作。ユーザーテストを繰り返しながら開発につなげます。
樹脂などの素材に直接印刷できる当社のUVプリンター「VersaUV LEF-300」と3次元切削加工機「MODELA PRO II MDX-540S-AP」(日本国内向けモデル)のほか、3Dプリンターやレーザーカッターなどを利用できます。
プロ向けの機材が揃うInspired.Labの工房
Inspired.Labならではの取り組みや当社製品の活用方法について、SAPジャパン株式会社の担当者にオンラインでお話を伺いました。(インタビューは2020年12月に実施しました)
SAPジャパン株式会社 常務執行役員 大我猛さん
Inspired.Labの運営や大企業・スタートアップ・自治体との協働イノベーションの推進などSAPジャパンの新規事業を統括しています。
Inspired.Lab所長 原剛さん
Inspired.Labに入居する企業を日々サポートしています。
Roland DG:SAPと三菱地所が起業をサポートするというのはちょっと意外な感じがします。Inspired.Labを立ち上げたきっかけを教えてください。
大我さん:Inspired.Labは、三菱地所が所有し、60年以上の歴史がある大手町ビルの大規模リノベーションを機に2019年2月にオープンしました。立ち上げにはSAPジャパンも協力しました。リノベーションの背景には、大手町・丸の内・有楽町エリアを大企業の本社だけでなく、新しいビジネスを作る人が集う場所にしたいという想いがあります。
私たちSAPは、主に企業向けのソフトウェアやシステムを扱うドイツ発祥の企業です。IT業界では創業50年近い老舗企業ですが、ここ10年ほどは新規事業で売上を伸ばしています。
既存事業にない新しい事業を立ち上げるために、全社で「デザインシンキング(デザイン思考)」と呼ばれる課題解決法を取り入れました。簡単に言うと、デザイナーのような視点でユーザーを観察し、解決すべき本当の課題を見つける手法です。解決策のアイデアの試作・テストを繰り返して新しい製品やサービスを生み出します。この手法を活かし、世界中のスタートアップを支援しています。
Inspired.Labはどのような場所ですか?
大我さん:一言で言うと、イノベーションを起こすための場所です。場所や設備を提供するだけでなく、入居者同士のコミュニティ作りを重視しています。アイデアの着想から、このエリアのオフィスビルなどを使った実証実験までSAPと三菱地所が幅広くサポートします。
現在、大企業の新規事業部門やスタートアップ35社、約400名が入居しています。スタートアップは、AIなどの最先端技術を使って宇宙ゴミの回収や医療画像の解析などさまざまな社会課題に取り組みます。若い創業者たちの事業にかける情熱は、あまり縁のなかった大企業の社員にも良い刺激を与えています。
電動車椅子のイメージを一新する新しいモビリティを開発するWHILLもその一社です。Inspired.Labで自動走行の実証実験も行いました。
WHILLの実証実験の様子を動画でご覧いただけます。鮮やかな青のアームカバーは工房のUVプリンターで装飾されました。
WHILLの開発現場では当社の3次元切削加工機「MODELA MDX-50」も活躍しています。過去の取材記事はこちら
思いついたアイデアをすぐカタチにできる工房
工房に導入されたUVプリンター「VersaUV LEF-300」
当社製品を工房でどのように活用いただいていますか?
原さん:ローランド ディー.ジー.のUVプリンターや3次元切削加工機は、主にスタートアップや大企業のハードウェアの試作に使われています。開発中の製品もあるため内容を詳しく紹介できず残念ですが…。
UVプリンターは操作が簡単でコストも安く、1個から作れるので試作以外にもいろいろな面で役立っています。トレーニングには各社の若手社員が積極的に来てくれます。ものづくりの経験があまりなかった方もバリバリ使っていますね。
UVプリンターはコミュニケーションの道具にもなっています。自社のロゴやお客様の名前が入ったオリジナルグッズは外注すると結構費用がかかりますが、UVプリンターなら手軽に自作できます。また、エントランスや個室に掲示する入居者のネームプレートも、新しい企業が入るたびにスタッフが内製します。
UVプリンターで印刷したネームプレート
3次元切削加工機はエンジニアなど機械や設計になじみのある方を中心に、試作用途でご利用いただいています。初心者にも利用を広げるのが次の目標ですね。
3次元切削加工機「MODELA PRO II MDX-540S-AP」
切削加工でこんなサンプルも
工房を設けた狙いは何ですか?
原さん:Inspired.Labではアイデア出しのワークショップができるスペースと工房がガラス越しに隣接し、思いついたアイデアをその場で試作できます。特にスタートアップの製品開発はスピードが命。すべての機能がそろわなくても、最小限の価値が伝わる試作品ができたらすぐにユーザーに見せる。ダメなら改善して次の試作品を作る。そんなサイクルが重要です。
大我さん:イノベーションを起こすには、他者から刺激を受けて志に火をつける「Inspire(着火)」、アイデアを練る「Ideate(構想)」、アイデアを実行する「Development(実行)」が必要です。とにかく実行することが大切で、アイデアの段階では失敗しても構いません。
そのためにもアイデアを試すための工房は絶対に設けたいと考えていました。アイデアが頭の中にあるだけではユーザーのニーズに合うか検証できません。早い段階からカタチにすれば、将来のユーザーや他の入居者から意見をもらい、改善できます。
ハードウェアの力で日本を元気にしたい
オープンから2年間で感じた手応えは?
大我さん:入居者のコミュニティが順調にできてきました。私たちはいわば「おせっかいおじさん」。共通の接点を見つけて紹介してあげるだけで入居者同士の会話が弾み、新しいアイデアにつながります。
2020年はコロナの影響で大変な年になったと思います。
大我さん:今までは、異なる背景を持つ人たちが偶然ここで出会い、アイデアが生まれることに価値があると思っていました。けれど、特に4月から6月頃はコロナの影響でほとんど出社できない状況に。手探りでしたが、ただオンラインに置き換えるだけではない新しい価値ができてきました。例えばワークショップもオンラインにすれば履歴をすべて残せます。捨てていたボツ案からも新たな発見があります。
最後に、Inspired.Labの今後の展望をお聞かせください。
原さん:以前から、ソフトウェアの世界では試作してすぐに起業することが可能でした。一方で、ハードウェアの試作には工場や大規模な設備が必要でした。今は工房にあるような機材で1個2個からハードウェアの試作ができるようになり、起業のチャンスが広がっています。みんなでハードウェアの力を軸に日本を元気にできればと思います。
大我さん:Inspired.Labには、新しい事業の立ち上げを目指すスタートアップや既存の事業にない新たな柱を見つけたい、あるいは企業風土を変えたい大企業などが集まります。それぞれのゴールを達成できるよう、これからも伴走者としてサポートしていきたいと思います。
ありがとうございました。
Inspired.Labから次にどんな社会を変えるアイデアが生まれるのか、期待がふくらむインタビューでした。