指揮者 吉田裕史氏

マエストロ吉田裕史氏 リトアニア公演へ思い語る

2024年06月27日 企業活動, デジタルプリンティング

当社が協賛するリトアニアの「第23回カウナス城オペラ国際フェスティバル2024」(7月5、6日開催)。そこでプッチーニのオペラ「蝶々夫人」を指揮する吉田裕史氏=写真、本人提供=に、公演への思いを聞きました。
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日本を伝えられる演目

Roland DG:演目の「蝶々夫人」はどのように決められたのでしょうか?

リトアニアで指揮するにあたって尾﨑哲大使(駐リトアニア日本国特命全権大使)と最初に語った時に、「日本の魅力を、日本人の音楽家を起用して、リトアニアと日本の文化交流のためになるオペラをやりましょう」というところから始まりました。そうした中で、日本を舞台にした蝶々夫人は、日本の魅力を伝えられるオペラであり、そして日本人の歌手を起用して世界の舞台に送り込みやすいオペラです。それで蝶々夫人に決めました。

カウナスでの公演が決まった経緯を教えてください

最初は首都のビリニュスという話もありましたが、あえてカウナスはどうかというアイデアが大使館からありました。カウナスはご存知の通り、杉原千畝が活躍した街です。ビザを発給してユダヤ人を何千人も救った。日本とリトアニアの文化交流、友好ということであれば、カウナスのほうが日本にシンパシーを感じていて、コラボレーションしやすいのではないかと考えました。カウナスに行ってびっくりしたのですが、「スギハラ」って言うとみんな知ってますから。

杉原千畝は誰もが知るような存在だと。

はい。杉原記念館にも行き、本当に感銘を受けました。私たち音楽家は、音楽は普遍的な魅力・価値を持っていると信じています。そして音楽を、多くの人に、必要としているところに届けたいと思って活動しているわけです。去年ウクライナに指揮に行ったのもそういう思いからでした。それと杉原千畝の生き方に、共通しているものを感じました。それに感激したのが強いモチベーションになり、カウナスでやる意義を確信しました。

今回は野外での公演です。その魅力は?

野外のスペクタクルな、借景的なというか。カウナス城が常にバックに見えている。これは(劇場とは)まったく別の魅力ですね。なによりスケールが大きい。そして歴史を感じるとか、夜は涼しくなって風を感じたり。外ならではの魅力はいろいろあります。

世界基準の舞台に挑んで

今回は日本のソリストを世界の舞台に送り込む機会にもなると。

そうです。私はこれまで若い音楽家たちをサポートしてきました。 そこで感じたのは、(音楽家は)世界に出た瞬間にマインドをチェンジしないといけない。舞台に立った時に控えめに「頑張って演奏します。世界一とはとても言えませんけど」じゃだめなんです。やっぱり「世界最高の演奏を皆さんにお届けします」って言わなかったら、思って、信じて演奏しなかったらお客さんに失礼じゃないですか。それが世界基準です。なので、海外の舞台にチャレンジする日本人の後輩たちには、そういう心構えをずっと言ってきました。

ソリストはオーディションで選ばれたとのことですが、決め手は何でしたか?

私はオペラの本場イタリアで20年以上やってきたので、その観点から実力を判断しました。その上で、人を惹きつける表現力を見ました。リトアニアは小さな国というイメージがあると思いますが、音楽のレベルが高い。特にコーラスのレベルは高いです。

コーラスのレベルが高いと。

バルト三国は共通して、コーラスのレベルがものすごく高い。つまり音楽全体のレベルが高いということです。選ばれたソリストたちは武者震いだと思いますよ。

今回、日本人のソリストは若手の方が多いようですが。

あえて若い歌手を選びました。というのも、可能性は若いほどいいんです。海外に出ていくとさまざまな困難があります。若さの特権、いい意味での怖いもの知らずがあるわけです。そこにポテンシャルを見出しました。

カウナス城オペラ国際フェスティバルの様子

以前のカウナス城オペラ国際フェスティバルの様子(撮影:Laimutis Brundza)

いろんな役柄が出てきますね。

蝶々夫人の場合は、主役が4人。蝶々さんとピンカートンと。ピンカートンはアメリカ海軍の士官で蝶々さんの恋人です。そしてシャープレス、長崎のアメリカ総領事ですね。そしてスズキ、これは蝶々さんの女中さんです。さらに脇役がいて。ゴロー、これは金銭で女性を紹介する人、当時はそういう職がありました。それからヤマドリ、大名の子孫でお金持ちです。プレイボーイの役で出てきます。あとは、ボンゾおじさんという蝶々さんの親戚。これが怒って出てくるわけですよ。「外国人と結婚するとは何事か」って。ほかにも薬師手、役場の人とかいろいろ出てきます。主役・脇役・端役を入れると15人のソリスト、さらに60、70人のコーラスが出てきます。

オペラの魅力 日本でも広めたい

オペラって日本ではまだまだ知られてなくて。オペラができる劇場は結構あるんですけど、公演の数が少ない。劇場はあってもオペラを制作する機能がない。日本では新国立劇場が唯一すべての機能を備えているオペラハウスです。これ、イタリアだと50ぐらいあります。なので、私のミッションの一つは、日本のオペラファンを10倍に増やすことなんです。今回もすごくいい機会です。リトアニアとか、杉原千畝とか、ローランド ディー.ジー.とか。そこからオペラに興味を持つ人が増えますから。

約1万人の観客来場が見込まれています。

普通の劇場は大きくても2000人ぐらいですが、今回は1万人。人がいっぱいいると熱量が違います。日本人のソリスト4人には、本当に聴衆を魅了してほしいと思います。

今回の見どころは、非常にポテンシャルの高い日本人ソリストと、そして吉田様の指揮で最高の演奏を届けられるというところでしょうか。

そうです。日本が舞台のオペラですから、日本人の良さが生きるわけです。日本人の歌手が歌って演じることによって、まねや知識じゃなくて、オペラそのものが本物になるわけです。ものすごいアドバンテージですよ。

堅苦しくならず楽しんで

プッチーニってイタリアのオペラだから、ちょっと遠い存在に感じませんか?

そうですね、やはりイメージとしては。

でしょう。どこか遠い存在。イタリア語だからよくわからなくて、ハードルが高く感じるはずなんです。ところが、蝶々夫人は日本人が親しみを感じやすい。少なくとも17の日本の民謡のメロディーが出てきますから。「お江戸日本橋」とか「さくらさくら」とか。

それなら、聞きながら「これだな」って楽しめますね。

そうなんですよ。こういう話をしてあげると、オペラを楽しめますよね。知らずにいると、イタリアの音楽だと思って終わっちゃいます。ストーリーは検索すると出てきます。だけど今話したような、日本のメロディーが出てくるとか、飾らない役柄の説明とか。(オペラの解説は)そんなのでいいんですよ。プッチーニはそう意図して書いているわけですから。

ローランド ディー.ジー.の技術に可能性感じる

いただいた資料を拝見して、オペラの舞台美術などにローランド ディー.ジー.の技術が使えると思いました。立体的な印刷もできるのですか?
(注:「DIMENSE」のこと。製品情報はこちら

そうですね。凹凸を表現できるプリンターもありますし、3D加工する切削機とかもございます。

オペラの舞台の背景って舞台美術家が全部手書きするのですが、それが時間もコストも節約できて、演出家の思ったようなイメージをローランド ディー.ジー.のプリンターで印刷してもらうと。特にその立体的なやつですね、オペラの舞台に使えるようになるんじゃないかと興味を持っています。

ぜひ、さまざまな場面で活用してもらえればうれしいです。

全身全霊で最高の演奏に

最後に、音楽を通じて一番表現したいことや意気込み、抱負をお聞かせください。

私はオペラ指揮者なので、人間の声が最高の楽器だと思っています。ピアノなどを弾いていても「もっと歌って」って言いますよね。歌というのは音楽の基本。そういった意味でもオペラは歌にあふれていて魅力的で、一流の歌手が歌うと忘れられない体験になります。それを堅苦しくなく、お楽しみいただきたいと思います。
そういった意味で、フェスティバルはいい意味で堅苦しくない。ヨーロッパの人にとっては、日本の花見みたいな感覚なんです。
エンターテインメント感覚で最高の音楽を楽しんでいただけたらと思います。私はとにかく全身全霊で本番に臨みます。最高の演奏を約束します。

本番を楽しみにしています。ありがとうございました。