デジタルで作る、自由で新しい磁器
2022年11月15日 3Dものづくり
嬉野温泉で有名な佐賀県嬉野市で作られる肥前吉田焼。肥前吉田焼の先進的なブランドである224porcelain様は、当社の3次元切削加工機「MDX-50」を導入し、伝統工芸のデジタル化に取り組んでいます。
指輪のように指をくぐらせて使うユニークな酒器。焼く前は素材の粘土の色(上写真)
新しい肥前吉田焼を作るブランド 224porcelain
224porcelain(ポーセリン)は肥前吉田焼の磁器のブランドです。江戸時代から続く辻与製陶所の実家から独立して立ち上げました。代表の辻諭さん(下写真)にお話を伺いました。
Roland DG:224porcelainはどのようなブランドですか。
辻さん:長年実家で修行してきましたが、その枠を超えて新しいことに挑戦したいと10年前に224porcelainを立ち上げました。「224」は実家の屋号の「辻与」をもじっています。
肥前吉田焼は古くから近隣の佐賀の有田や長崎の波佐見といった有名な産地の下請けとして発展してきました。例えば昭和の家庭の食卓でよく見られた水玉の茶器は肥前吉田で作られていましたが、名前が表に出ることが少ないため知名度が低く、あまり決まった様式もありません。だからこそ新しいことにチャレンジしやすい土壌があるとポジティブに捉えています。
224porcelainではシンプルかつユニークなデザインの食器や雑貨など、長くお使いいただける商品を展開しています。私自身のデザインだけでなく外部のプロダクトデザイナーとコラボするなど、デザインにこだわっています。また、レストランの食器などオリジナル商品の製造やインテリアショップなどへの卸、他社ブランドのOEM製造なども行っています。
嬉野温泉街にある224porcelainの直営店は人気の観光スポットに
伝統的な磁器の製造をデジタルで変える
224porcelainの磁器はどのように作られていますか?
陶器と磁器は似ていますが、土がベースの陶器に対し、磁器は石がベースになります。磁器の製造方法の1つに鋳込みという方法があります。粘土を泥しょうと呼ばれる液体状にして石膏型に流し込み、石膏が水分を吸い込む性質を利用して形を作ります。224では原型のデジタルデータから乾いた石膏ブロックを削り出し、量産用の石膏型の元となる型を作っています。
今までは原型を手で作り、型屋さんに石膏型を外注するため納期が1ヶ月ほどかかっていました。切削加工で内製すれば簡単な型なら4~5日で完成し、納期を大幅に短縮できます。また、手作業では難しかった細かい造形も可能になります。
スタジオでできた作品は、車で数分の場所にある窯へ。手前は最も大きなガス釜
焼成待ちの作品がずらりと並ぶ
デジタルを導入したきっかけについて教えてください。
独立前、佐賀県窯業技術センター(県内の窯業研究機関)でデジタルデータから直接石膏を切削加工して型を作る技術を初めて見て、「これは業界のスタンダードになる」と確信しました。ちょうどその頃、実家の自動制御の窯が壊れてしまい、一晩中30分~1時間おきに窯の温度を調整しなければいけませんでした。その待ち時間に独学で3D CADを習得し、センターに切削加工をお願いしてデジタル化に取り組み始めました。
ステップアップして自分で切削加工もしてみたいと、まずは値段が手頃な小型のSRM-20を導入し、すぐに現在のメイン機のMDX-50を導入しました。生産量を増やすためもう1台増設し、さらに大きなサイズを作れるよう大型のMDX-540も導入しました。今は昼夜問わず4台をフル稼働し、ほぼすべての商品の型を切削加工で作っています。
MDX-50はとても操作しやすく、切削スピード・精度・ランニングコストにも満足しています。付属のCAMソフト(切削加工データを作成するソフト)「SRP Player」も使いやすく気に入っています。
ユニークな事例では、地元佐賀の酒蔵の「北斗の拳」をモチーフにした焼酎ボトルもデジタルで製造されたそうですね。
鹿島市の光武酒造場さんと北斗の拳の版元である株式会社コアミックスのコラボ商品として誕生した、ラオウの愛馬「黒王号」をモチーフにした芋焼酎ボトルとグラスを製造しました。イメージ通りのボトルを作れる窯を探していた光武酒造場さんから依頼があり、製作することになりました。アニメの作画監督の和田卓也さんによるデザイン画から、特殊メイクアップアーティストのAmazing JIROさんがボトルの原型を製作。その3Dデータを磁器で忠実に再現するため、私が3Dデータの編集、NC切削を行い、一から素材や焼成温度を選定するなど試行錯誤を重ねました。白い素材に黒の釉薬をかける通常の作り方では、原型の筋肉などの繊細なラインがつぶれてしまうので、黒の素材に透明な釉薬をかけています。224を立ち上げてから最も苦労したプロジェクトでしたが、作家としての長年の経験とデジタル技術によって実現できました。まるで芸術品のようなボトルに仕上がったと自負しています。
長く使えて喜ばれるものを作りたい
今後の展望をお聞かせください。
大量生産・大量消費ではなく、たくさんの方に喜ばれ、長く使っていただけるものを作っていきたいと思います。肥前吉田は10軒の窯元からなる小さな産地です。今は窯元を挙げて、お客様に肥前吉田焼のことをもっと知り、愛着を持っていただきたいと、実際の製造工程を間近で見られる工場見学、規格外品として廃棄されてしまう商品の直販などに取り組んでいます。また、今はそれぞれの窯が独立して商品を作っていますが、肥前吉田の窯元みんなで焼く共通のブランドを作りたいと考えています。
今年9月、ここ嬉野温泉に西九州新幹線が開業しました。影響はまだこれからだと思いますが、多くの方にお越しいただくきっかけになればと期待しています。2024年には佐賀で国体も開催されます。地元の伝統産業の担い手の一人として、これからも佐賀を盛り上げるお手伝いができればと思います。
ありがとうございました。使う人に寄り添う素敵な作品をこれからも楽しみにしています。