企業ニュース
2015年06月11日
ローランド ディー.ジー.株式会社
ローランド ディー.ジー.が浜松医科大学と共同で医療器具・器材の保全・管理にかかわる作業支援システムを構築
業務用インクジェットプリンターや3次元ものづくりツールを製造・販売するローランド ディー.ジー.株式会社(取締役会長兼社長:冨岡昌弘、本社:静岡県浜松市)は、経済産業省の「平成26年度産学連携評価モデル・拠点モデル実証事業(モデル構築・モデル実証事業)*1」の採択を受け、国立大学法人浜松医科大学(学長:中村達、本部:静岡県浜松市)と共同で推進してまいりました、医療器具・器材の保全・管理にかかわる作業支援システム構築事業の第一事業年度を完了し、浜松医科大学医学部附属病院内に同システムを整備しましたのでお知らせします。
経済産業省のモデル構築・実証事業は、大学の現場で認識された課題を産学連携で解決する事業を対象にしたものです。当社と浜松医科大学が取り組んでおります事業では、当社の医療器具用マーキング装置「MPX-90M*2」と当社の生産現場で活用している「デジタル屋台*3」の作業支援システムに関する技術・ノウハウを応用することで、浜松医科大学が抱える同大学医学部附属病院の中央診療施設材料部内での、医療器具・器材管理の効率化ならびにそれらの分解・洗浄・組立・滅菌などの作業品質および効率の向上という課題を解決するとともに、他の医療機関が抱える同様の課題に対し汎用性の高いソリューションモデルを構築・提供することを目指しております。
浜松医科大学医学部附属病院の中央診療施設材料部では、手術で使用される膨大な種類の医療器具・器材の管理と、器材ごとに異なる分解・洗浄・組立・滅菌作業の均質化・効率化が求められる中、「器具・器材の名称や用途が覚えきれない」「紙ベースの作業マニュアルが多すぎる」「作業手順が複雑すぎる」などの課題を抱えており、作業品質のバラツキや作業手順の間違いなどの人的ミスの発生が懸念されていました。また、医療器具・器材の正確な保有数や使用履歴、耐久期限などの情報を把握することが困難で、器具や器材部品を誤って紛失・廃棄したり、必要以上に多く購入してしまうケースもありました。当社は、これらの課題に対するソリューションを提供すべく、2014年10月から本事業を推進し、2015年3月には、MPX-90Mに加え、マーキングを読み込むための2次元バーコードリーダー「MR-1」、医療器具・器材の洗浄支援システム、医療器具・器材の検索・組立支援システム、作業支援システムのネットワーク環境を整え、医療器具・器材の管理や作業品質および効率の向上に資すると同時に、患者の安全を担保するシステムを構築いたしました。
それぞれの成果については、下記をご参照ください。
第一事業年度における主な成果
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MPX-90Mの導入と医療器具・器材へのマーキング
MPX-90Mは、医療器具・器材へのマーキングに特化したドットピン方式の小型マーキング装置です。医療器具や器材の部品一点一点にシリアル番号や2次元シンボルを打刻することで、識別性とトレーサビリティー(追跡可能性)を確保することができます。当事業年度では、中央診療施設材料部が管理する医療器具・器材のうち約4,000点にマーキングを行いました。
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MR-1の開発・導入
MR-1は、MPX-90Mでマーキングしたシリアル番号や2次元シンボルを読み取るバーコードリーダーです。MPX-90M用のバーコードリーダーとして専用開発し、医療機器工業会のガイドラインに従ってマーキングした2次元シンボルを確実に読み取ることができる仕様を実現しました。
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デジタルマニュアルの整備と洗浄支援システムの開発・導入
当社の生産現場で活用しているデジタル屋台を応用し、医療器具・器材の洗浄作業支援システムを完成させました。従来の紙ベースの作業指示書をデジタル化するとともに、各工程を細分化し、画像を多用することで、誰もが分かりやすい「デジタルマニュアル」を整備しました。これにより、属人化していた洗浄作業の標準化が図られ、作業品質のバラつきを抑制することができるようになりました。
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作業指示書のデジタル化と医療器具・器材の検索・組立支援システムの開発・導入
手術に際しては、手術部位や方法に応じて、必要となる器具・器材が異なるため、洗浄・滅菌が終わった器具・器材を再度「セット組」して手術室に供給する必要があります。準備すべき「手術セット」は600種以上にのぼり、膨大な数の器具・器材から必要なものを選択することは至難の業です。今回、この600種の紙ベースの作業指示書をデジタル化することで、「セット名称」「診療科」「器具・器材の点数」で検索できるようにするとともに、MR-1と連動することで、器具・器材の名称や用途が分からなくても、器具・器材にマーキングされた2次元シンボルをもとに指示書が検索できるようにしています。なお、セット組に際しては、必要な器具・器材を確実にピッキングする必要があるため、現場作業者と検討を重ね、大画面、高画質で、携帯性の高いタブレット型のモバイル端末を使用しています。
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作業支援システムネットワーク環境の構築
当社の工場では、各デジタル屋台での作業ログデータをサーバ上に保存し、現場管理者が作業進捗を把握したり、データ解析を通じて作業の改善活動につなげたりすることができるようになっており、個別の屋台だけでなく、工場全体の生産を最適にコントロールできるようになっています。このネットワーク環境と分析システムを応用することで、洗浄支援システムや医療器具の検索・組立支援システムと専用のサーバをネットワーク接続し、各端末での作業指示書の同期を図ったり、作業履歴の管理・分析を通じて改善活動につなげたりすることが可能になりました。
第一事業年度の成果について、浜松医科大学医学部附属病院中央診療施設材料部の技術専門職員である石野直己氏は、「衛生管理を徹底し、患者安全を確保することが私たち材料部の使命です。しかしながら、この使命を果たすためには、多くの課題があります。例えば、医療器具や器材の種類が覚えきれないほど膨大な数にのぼること、それぞれの器具・器材の洗浄方法が細かく規定されており方法を間違えると高額な修理費用が発生すること、600種類以上におよぶ手術セットに必要とされる器具・器材を正確にかつ迅速に準備することなどが挙げられます」と述べ、「こうした課題を乗り越え、全ての作業を安定的に実施できるようになるためには、最低でも二年の習熟期間が必要でした。この度、ローランド ディー.ジー.と開発したシステムを活用すれば、作業者の経験やノウハウに頼っていた作業が標準化できるうえに、注意力や記憶力に頼る部分も軽減され、作業者の負担も大きく軽減することと思います」と評価しています。
一方、本事業で当社の責任者を務めたEasy Shape事業開発本部DPM課長の矢澤賢裕は、以下のように述べています。「国内外の多くの医療機関では、浜松医科大学同様、医療器具・器材のトレーサビリティー管理や保全作業品質の向上、効率化といった課題に直面し、解決方法を模索しています。浜松医科大学とともに本システムの研究をさらに推進することで、実用化・事業化に必要なノウハウを蓄積し、世界中の病院が抱える課題を解決する有効なソリューションが提供できるようにしていきたいと考えています。また、システムの販売方法や販売チャネルを整備し、2018年度からは、医療機関に包括的なソリューションシステムを販売する事業を展開する予定です」と述べています。
医療器具・器材の保全・管理に関わる作業支援システム構築事業の背景
近年、医療の現場では、院内感染のリスクを回避し、患者の安全を確保すべく、従来の医療器具・器材の保全・管理方法を見直す動きが広がっており、医療機関における器具・器材の管理を徹底させようとする規制当局の動きも世界的に顕在化しています。米国では、全ての医療器具を対象に固有の識別子を表示するUDI (Unique Device Identification) 規制が2014年9月から段階的に施行されており、EU地域、アジア各国でも今後数年内に義務化される見込みです。当社は、これらの動きに対応して、2012年にMPX-90Mを発売し、日本をはじめ世界各国の医療機関、医療器具メーカーを中心に、器具・器材に打刻した2次元シンボルを活用することで、各器具・器材の保有数、所在、使用回数、使用履歴などを管理するソリューションを提案してまいりました。
また、当社は、医療現場にMPX-90Mを提案する過程で、手術後の医療器材の分解・洗浄・組立・滅菌などの作業が、作業者の経験値に左右される属人的なものに留まっている事例を見、煩雑な作業を伴う多種多様な医療器具・器材の保全に、当社が生産現場に導入している作業支援システムを応用することで、業務品質および効率を向上させることができるのではないかと考えました。
検討を進める中で、当社は、はままつ次世代光・健康医療産業創出拠点*との連携および浜松商工会議所の医工連携研究会での活動を通じて、浜松医科大学が抱える医療器具・器材の保全・管理に関する課題を知るに至り、これを解決するための共同研究を進めてまいりました。当社がデジタル屋台の作業支援システムを当社製品の生産以外の分野に適用することは初の試みであり、医療現場でトレーサビリティー管理システムとともにデジタルマニュアルを活用した作業支援システムの構築を目指すことも世界的に例を見ませんが、医療現場に包括的なソリューションを提供し、患者の安全を担保できるよう、今後も当社の技術とノウハウを有効に活用してまいりたいと考えております。
* はままつ次世代光・健康医療産業創出拠点(通称:はままつ医工連携拠点)は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が、平成21年度に公募した「産学官共同研究拠点整備事業」の拠点事業であり、平成21年12月に全国28地域拠点の一つとして採択されました。
産学官共同研究拠点整備事業は、各都道府県に地域の産学官共同研究拠点を整備し、地域の特性を生かした産学官共同研究を推進するとともに、研究成果を地域の企業へと展開することを目的とするものです。
はままつ次世代光・健康医療産業創出拠点事業は、浜松医科大学を中心とする産学官7団体(浜松商工会議所、財団法人浜松地域テクノポリス推進機構 [現:公益財団法人浜松地域イノベーション推進機構]、浜松医科大学、静岡大学、光産業創成大学院大学、静岡県、浜松市)で構成され、健康・医療関連産業を重点分野に産学官の共同研究を推進しています。健康、医療、医工(医学と工学)連携に関する情報提供やネットワーク構築を主眼とする総合窓口としての機能を担うとともに、平成20年度内閣府先端医療開発特区(スーパー特区)課題の事業化および関連技術の育成をはじめ、可能性のある技術やノウハウの発掘および需要の開拓を通じて、オンリーワン、ナンバーワンの製品の連鎖的な創出と事業化を目指しています。
*1 経済産業省の産学連携評価モデル・拠点モデル実証事業について
産学連携評価モデル・拠点モデル実証事業は、モデル構築事業とモデル実証事業で構成されます。モデル構築事業は、産学連携活動を推進するために、大学機関が主体となり、学内で認識された特定の課題を大学が所在する地域の産業、自治体、商工会議所などと連携しながら、いかにして解決に導くかを示したPDCA(Plan, Do, Check, Action:計画、実行、評価、改善)サイクルモデルを構築することを狙いとしています。一方、モデル実証事業は、構築されたPDCAサイクルモデルが、当該課題を解決するものであることを産学連携プロジェクトで実証し、汎用性のある事業として確立させることを目指します。実証過程においては、予め定めた評価指標に基づき、第三者機関(産学連携コンソーシアム)の検証、助言を受けることで、実証性や事業化の確度を高める一方、外部有識者とモデル構築・実証事業に関わる主要メンバーから構成されるワーキング会議が、産学連携活動を促進するための大学の制度改革に向けた検討と提言を行います。最終的には、地域の産学連携活動を活性化し、連続的なイノベーションの創出により地域経済ひいては日本経済の発展を促すことを目的としています。
*2 MPX-90Mについて
医療器具へのマーキングに特化したドットピン方式の小型マーキング装置です。医療器具の一点一点にシリアル番号や2次元シンボルを打刻することで、トレーサビリティーを確保します。2次元シンボルの一種であるGS1データマトリックス**を1mm角で表現できる精度を備え、ドットピンで一定の深さに打刻することで、消えにくい印字が可能なうえ、印字面が錆びにくいという利点があります。医療器具を固定するバイスや印字の位置合わせ用にレーザーポインターを装備しており、取り扱いに難しい知識を必要とせず手軽にマーキングを施すことができます。
** GS1データマトリックスとは、バーコード、2次元シンボル、電子データ交換の世界標準化機関であるGS1(ジーエスワン、本部:ベルギー)が、世界各国の規制当局、機器メーカー、医療機関などと連携し、鋼製器具に表示する2次元シンボルとして定めた規格です。商品コード、使用期限、ロット番号、シリアル番号などの情報を26バイト(半角英数で26文字)まで保持することができ、専用のリーダーで読み取ることで器具の個別認識が可能です。
*3 デジタル屋台について
当社が独自に開発したデジタル方式のセル(一人一台)生産システムで、当社工場での生産に採用されています。作業者は、パソコンのディスプレイに表示されたデジタルマニュアルを確認しながら、工程ごとに必要な部品を自動供給する回転ラックから部品を取り出し、指示された電気ドライバーを選択して製品を組み立てていきます。間違った部品やドライバーを使用することがないよう工夫されているだけでなく、各工程で品質検査を実施することで、工程内で品質を作り込んでいます。デジタル技術を活用することで人間の記憶力や注意力をサポートし、高品質と高生産性を同時に達成していることが特長です。各屋台での作業ログデータはサーバ上に保存され、現場管理者が作業進捗を把握したり、データ解析を通じて改善活動につなげたりすることができるようになっており、個別の屋台の管理だけでなく、工場全体の生産を最適にコントロールできる点も大きな特長です。
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ローランド ディー.ジー.株式会社
グローバルマーケティング部 マーケティングコミュニケーション課 担当:沖野
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